「User & IBM NEXT 2018」(札幌市)の開催にあわせ、米IBMよりIBM i チーフ・アーキテクトのスティーブ・ウィル氏と、Db2 for i コンサルタントのダグラス R・マック氏が来日した。そこで、IBM POWER9搭載機への置き換え需要で活況を呈する日本市場の状況を共有するとともに、海外市場の最新動向やIBM i の今後の開発方針などについて話を聞いた。
左から ダグラス R・マック氏 / スティーブ・ウィル氏
日米ともに成長を続けるIBM i
――この1年間、IBM i の日本市場は成長し続けています。ハードウェアの置き換え需要が伸び、直近の四半期の出荷台数は過去最高を記録しました。POWER9を搭載した新機種を発表して以来、日本のIBM i 市場は大きくPOWER9へと移行しています。ただし、ハードウェアの置き換えが進む一方で、アプリケーションのリニューアルや新機能の追加などについて、日本のお客様はやや消極的な印象です。海外ではいかがでしょうか。
スティーブ
米国でも、IBM i の市場は4四半期連続で伸びています。IBM i のビジネスは循環的に推移する傾向があり、新しいハードウェアのリリースと収益の向上がセットになって発展してきました。
しかし、今回は少し違うようです。ビジネスが伸びている4四半期のうち、前半の2つの四半期には、新機種のハードウェアがありませんでした。ハードウェアが無い状態にもかかわらず、ビジネスが拡大したのです。
新機種のハードウェアが無かった期間、世界のパートナー企業はソフトウェアのビジネスにフォーカスしていました。新機種のハードウェアの発表がなくても、新しいアプリケーションによってクライアントの進化をお手伝いできたことが、成長につながったと見ています。
IBM Db2 Web Query for iの導入は今後も加速
ダグラス R・マック氏
――米国市場では、何か新しいトレンドが見られますでしょうか。従来IBM i はシステム・オブ・レコードと呼ばれる企業の伝統的な基幹業務に使われてきたと思いますが。
スティーブ
IBM i はシステム・オブ・レコードとして成長してきましたが、その過程で多くの機能を拡張してきました。例えば、モバイル向けの機能や、オープンソース・アプリケーションへの対応などです。今日では、システム・オブ・レコードの範疇を超え、IBM i 上で様々なアプリケーションが稼働するようになっています。
ダグラス
例えば、私のチームは、IBM i によるデータウェア・ハウジングやデータ解析など、ビジネス・インテリジェンスの分野をお手伝いしています。
そこで気づいた点が、2つほどあります。1つは、多くのお客様がシステム・オブ・レコードの考え方を一歩進め、より詳細なレポーティングやデータの可視化機能を追加したいと考え始めていることです。もう1つは、データ解析機能を統合した新しいIBM i のシステムを構築しようとする動きが加速していることです。IBM i 上のデータ・レポジトリーでそれらを実現していくことが、最近のトレンドになっています。
――その動きのカギになっているのは、やはりIBM Db2 Web Query for iでしょうか。
ダグラス
そうです。最新のプロダクトセットには、ビジネス・インテリジェンスやデータの可視化などに関する機能が盛り込まれ、IBM i への統合を容易にしています。既存の環境を変えることなく利用できるため、多くのお客様にご納得いただいています。IBM Db2 Web Query for iのその他のコンポーネントとしては、Data MigratorやETL、Data Warehouse Builderなどがあり、どれも低コストかつ容易にIBM i に統合できます。市場で入手可能な分析やインサイトの活用ツールは多数ありますが、IBM i ネイティブで使えるものは、そう多くはないでしょう。
――となると、IBM Db2 Web Query for iの採用が今後も増えるということでしょうか。
ダグラス
そう思います。私たちは、すでにほとんどのお客様にライセンスを配布させていただきました。
お客様の使用状況を正確に把握することはできませんが、いくつかの指標から推測することは可能です。例えば、Webフォーラムには500人ほどの方が参加し、活況を呈しています。
また、収益データやソフトウェアメンテナンス費用の推移からも推測できます。ライセンスを提供しても使用しない方が少なからず存在しますが、有償のメンテナンスサービスを受けているお客様は、実際に使用していると考えられます。現在、メンテナンスをご契約いただているお客様多数いらっしゃいます。
スティーブ
日本市場の最大の特徴は、IBM i で新しいことを実現したいと希望するお客様が多い点です。IBM i は、日本のお客様に背中を押されて進化してきたと言っても過言ではありません。私はほぼ毎年日本を訪れていますが、日本のお客様は、常にシステムのモダナイゼーションについて議論しています。オープンソースを盛り込んだことも、データ解析の機能強化も、IBM Db2 Web Query for iの開発も、元はと言えば、すべて日本からの要望が発端となってきました。
その結果、私たちは日本のお客様に励まされているという感覚を持つに至っています。IBM i で新しい機能を実現するたびに、日本のお客様に歓迎されていると感じます。
オープンソースの活用で実現できる新機能が拡大
スティーブ・ウィル氏
――日本のお客様には、何でもIBM i 上で実現したい人が多いのは確かですが、その一方で、まだRPGⅢによる古いプログラムを使い続け、SQLインターフェイスを使用していないお客様も大勢います。米国では、アプリケーションの近代化は進んでいますか。
スティーブ
毎年、ヘルプシステム社による調査を実施していますが、その調査の中に「新しい機能の構築にどのようなテクノロジーを使っていますか」という設問があり、今年は86%ほどの回答者が最新 RPGと答えてトップでした。SQLは3位に入り、回答者の60~70%程度を占めています。米国のお客様は最新RPGやSQLの採用へと進み、さらにオープンソースを活用している状況が推測できます。
ただし、物言わぬお客様も多数存在していることは、私たちも認識しています。調査に回答せず、新しいテクノロジーも使わず、古いテクノロジーを使い続けている方々です。そうした方々には、この調査結果をお見せしながら、前進することによってさらなる価値が得られることを説明しています。
――新しい機能は、ILEとSQLでしか実現できませんからね。
スティーブ
そうですね。ごく限られた例として、いくつかの超大手企業が今でも旧式のデータベース・テクノロジーを使用し、私たちはそのお客様のために特別な仕事をすることもあります。しかし、それはあくまで例外であり、ほとんどのケースでは、最新RPGやSQLがベースとなっています。なぜなら、それがWatsonやJavaを含む外部のあらゆるテクノロジーとつながっているからです。
――お客様に古いテクノロジーから新しいテクノロジーへ移行していただくよう説得することが、難しくはありませんか?基幹業務の内容は変わらないのに、なぜテクノロジーの更新に投資する必要があるのかわからないという方が少なくありません。
スティーブ
私は、新しいテクノロジーを導入することで、新たな価値を生み出せるようになるとお話ししています。素材となるデータは同じでも、新しいツールで使用することにより、多くの価値を生み出すことができます。しかも、それは少しずつ進めていけばよいのです。今の業務を中断することなく、何ら支障を与えることもなしに、進化させることができます。IBM i で日々の業務を続けながら、モバイルやクラウドを活用した新しい機能を構築することは容易です。
――古いRPGを使用していたお客様が、エンジニアの世代交代を機にすべてをリニューアルしたいなどと極端なことをおっしゃるケースもあります。
スティーブ
すべてを一度にリニューアルするなどということは、リスクが高すぎます。そのために、私たちはRPGやARCADに投資してきました。オープンソースを少しずつ使いながら、若い開発者が無理なく新しい機能を加えていける環境をご用意しているわけです。
――IBM i が高く評価されている理由は、資産の継承、すなわち、古いプログラムがいつまでも動く点だと思います。一方、オープンソースの場合は、バージョンが変わっただけで古いプログラムが動かなくなるなど、継承性という面では、IBM i とはかなり思想が異なるように思います。オープンソースを取り入れることで、IBM i が大切にしてきた資産の継承というポリシーに影響は出ないでしょうか。
スティーブ
確かに、IBM i の思想とオープンソースの原則は異なります。オープンソースの良さは新しい世界へ果敢に挑むことであり、既存の投資を守ることではありません。しかし、最近は大企業も含め、多くの人たちがオープンソースに依存するようになり、その結果として、ある種の安定感が生まれてきたことも事実です。今や大企業もオープンソースを利用しているわけですから、継続性の維持を想定できる状況にあります。
――オープンソースは開発言語系での採用が多いように感じますが、データベースに関しては、今後もDb2を使用していく方針なのでしょうか。オープンソースの採用基準といったものはありますか。
スティーブ
IBM i については、データベースはDb2が中心になっていくと思います。アーキテクトの観点から言わせていただけば、オープンソースのデータベース・アプリケーションはまだまだ機能性が低く、アーキテクチャの状況が許す限りDb2に接続する方が有利です。Db2であれば、レポジトリやファイルを様々なプラットフォームで使用することも可能であり、オープンソースの活用も容易になるでしょう。
――アプリケーション開発の流れは、マイクロサービスに向かっているように思います。将来的には、IBM i もマイクロサービスでアプリケーションを組めるようになるのでしょうか。
スティーブ
IBM i のことをほとんど知らず、Linuxベースで仕事をしている人たちが話すマイクロサービスには、複数の意味が混在しています。例えば、標準型のネットワーク・リクエストモデルで特定のオペレーションを短時間で終わらせたい、などですが、それはIBM i ではすでに実現されています。
すなわち、Linuxの世界でマイクロサービスと言われているものは、IBM i ではすでにOSレベルで組み込まれていたり、RPGモジュールで実現できる機能がほとんどなのです。もちろん、やろうと思えばLinuxベースのマイクロサービスをIBM i 上で動かすことも可能ですが、IBM i 以外の環境を想定して書かれたものですから、効率は悪くなるでしょう。
呼び方や仕組みが違うだけで、同じ機能はすでにIBM i で実現されているのですから、それほど気にする必要はないと思います。難しいことを考えなくても新しい機能を容易に実現できるというIBM i のコンセプトは、そこにも表れていると考えます。
次期リリースの柱は、可用性、機能性、セキュリティ
――今年はPOWER9がリリースされました。来年あたり、IBM i の新しいリリースを期待できるでしょうか。
スティーブ
私たちはすでに努力しています。大規模なリリースがある場合、その6~9ヶ月ほど前から、一部のお客様に早期プログラムにご参加いただいていますが、残念ながら、現時点では新リリースで何が可能になるかはお話しできません。
1つだけ言えるのは、お客様からいただいている強いご要望として、可用性を高めてほしいという点があることです。これは、ハイエンドからローエンドまで、圧倒的多数のお客様によるご要望なので、戦略の柱の1つになると考えています。
また、セキュリティには、引き続き力を入れていきます。IBM i 7.3では、Authority Collectionのテクノロジーが新しく導入されましたが、この機能をさらに拡充すべく、恐らく、OSレベルから徹底的に作り込んでいくことになるでしょう。より高い可用性とデータベースの機能性、セキュリティの改善などが、次期リリースの柱になると思います。
――IBM i の可用性はすでに高いと思いますが、それをさらに高めるということは、メインフレームのレベルに近づくということでしょうか。
スティーブ
IBM i のお客様は可用性を重視すると同時に、継続性も重視し、それをメインフレームほどにはコストをかけずに実現したいと考えています。IBMメインフレームと同レベルというのはハードルが高いかもしれませんが、近いレベルまで持っていける可能性はあると思います。
――現行リリースの7.3では、テンポラル表という面白い機能が追加されました。Db2に関しても、次は何か新しい機能拡張が期待できるでしょうか。
スティーブ
テンポラル表やアクセス・コントロールは、いずれもデータ中心の戦略に沿うものです。アプリケーションをよりシンプル化し、アプリケーション・レイヤーをデータに近づけていくと同時に、プログラムの観点からデータベースをモダナイズして、データ中心の環境を実現しようとしています。これにより、データベースの効率と拡張性を向上させていきます。テンポラル表以外にも、様々なことが可能になり、データをより容易に扱えるようになるでしょう。
IBM i の普遍的な価値は、新しいテクノロジーの容易な統合
――IBM i は今年30周年を迎えました。歴史を振り返れば、RPGⅢとDDSでアクセスしたDB2/400の時代から、テンポラル表によってアプリケーション開発を容易にしたIBM i まで、大きな進化を遂げてきたと思います。しかし、これだけは変わらないという価値はありますか。
スティーブ
IBM i が持つ普遍的な価値とは、新しいテクノロジーを統合することの容易さだと思います。すなわち、ソリューションを可能にするために必要となるテクノロジーが何であれ、それを容易に統合できる環境が、IBM i には常に用意されています。いちいち専門家にならなくても、容易に統合できるのです。データ中心の戦略も同様です。小さなステップを積み重ねることにより、IBM i のお客様は必ず新しいテクノロジーを容易に活用できるようになります。
ダグラス
可用性を高め、実行を容易にし、セルフマネジメントを可能にするといった、シンプルな進化を継続している点だと思います。データベースの機能を強化する際も、複雑さが増すことは決してなく、IBM i を中心とする統一された価値にもとづいて強化されます。データベース専門の管理者を設けなくてもシステムを容易に管理できる利便性は、今後も重要であり続けると思います。
――本日はどうもありがとうございました。