ディープラーニングとAIの歴史
人工知能(以下AI=Artificial Intelligence)という言葉が使われ始めたのは1956年ごろ。「ダートマス会議」と呼ばれる、実質的な人工知能研究スタートとなる会合で、会議の主催者であるジョン・マッカーシーにより「Artificial Intelligence」という名称が定義されました。AIという言葉ができてから、すでに60年を超える時間が経過していることになります。以降、ニューラルネットワークや進化的計算などの実現手法など、AIの分野では人間と同じような「知能」の実現を目指し、長い間、研究が続いています。 ところが、AI実装に向けて試行錯誤が続けられたものの、概念が先行してしまったためか、なかなか成果がでませんでした。日本においても1982年、第5世代コンピューターと称して国がプロジェクトを実施しましたが、うまくいかずに終止符を打たざるを得ませんでした。 プロジェクトが頓挫した大きな理由は、「IF~THEN~ELSE」というような場合分けを次々と繰り返す人工知能のプログラムを人間が書いていたためです。人間の思考回路をプログラム化するとなると、膨大な数におよぶ分岐がおのずと発生します。そのような複雑なプログラムを人間が把握し、管理するというやり方はとても現実的ではありませんでした。手作業の限界をなくす「機械学習」という発想
そこで、人間では管理しきれないのであれば機械そのものに学習させ、プログラミングさせようというコンセプトが生まれます。それが「機械学習」です。機械学習の要となるのがアルゴリズムです。機械学習の実現にはいくつかの手法が検討されましたが、現在時点で最も成果を出しているのがディープラーニングというやり方です。 人工知能、機械学習、ディープラーニングそれぞれの関係は図1のようになります。
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ディープラーニングの基本的な仕組みとは
ディープラーニングでは、機械学習を行うニューラルネットワークという考え方を持ちます。つまり、まさに脳の中です。このニューラルネットワークを何層も重ねていく(脳細胞が層になってたくさん存在するイメージ)仕組みが、ディープニューラルネットワークで、それによる学習をディープラーニングと呼びます。 従来のAIと違い、ディープラーニングではプログラムを書きません。トレーニングを経て、機械が自分で学習していきます。推論の重みづけを機械が自分で勝手にやるのです。「じゃあ、ちょっとこっちを重みづけして、それからこっちを重みづけして…」といった組み合わせで、結論を出していきます。いわゆる数値計算プログラムではなく、カテゴリーとタイプを分析し、その重みづけをする作業を何層にも及ぶプログラムで繰り返しおこなうことで精度を高めていくイメージです(図3)。
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ディープラーニングで何ができるか
シンギュラリティ―(人工知能が人間の知能を超えるポイント)という言葉が話題になるように、人工知能が人間の能力を超え、人間が想像できない何かが生みだされたり、人間の仕事がなくなったりしてしまうのではないかという話があります。実現可能性については意見が割れていますが、ディープラーニングを中心とした機械学習によってさまざまなことが可能になるのは確実で、各種実証実験が盛んです。 たとえば、お金の流れのデータを学習してマネーロンダリング(資金洗浄)を事前に防いだり、大量の医療事例を読み込んで医師の判断のサポートをしたり、凡例や法律を読み込んで弁護士のような仕事をしたりなど、想像できることはたくさんあります。 日本におけるディープラーニング技術の中では、現在(編集部注:2016年11月)はプリファード・ネットワークス(株式会社Preferred Networks)がリードする、「Chainer」というフレームワークが最も有名です。国内の多数の大手企業が使っていることが「Chainer」の強みですが、日本がAI分野において世界でリーダーシップをとるためには、海外でも広く活用されることも重要です。 日本においてもAIは一過性のものではなく、実用を見据えた段階に入ってきています。その中心的手法であるディープラーニングを駆使したあらたなビジネスモデルを考え、それを実現させるようなアルゴリズムやハードウェアも求められる時代となってきました。AIはもはや身近なものになり、生活のあらゆる場面で適用されてくるでしょう。 第2回目は「ディープラーニングのモデルと専用サーバーを知る」です。
筆者
笠毛 知徳
日本アイ・ビー・エム株式会社
サーバー・システム事業部
データ・セントリック・コンピューティング営業部長