「心地よいデータマイニング3つの掟」は、データマイニングの定義にはじまり、ビジネスへの応用、アルゴリズムの解説まで全10回にわたる、データアナリティクスについての連載です。データマイニングをビジネスに活かす一助として、ぜひご一読ください。
データマイニングとは?
「データマイニング」については昨今、インターネットや書籍などでたくさんの情報が出回っている上、セミナーなども多数開催されています。「ビッグデータ」「データサイエンティスト」などとあわせもはやバズワードの感すらあり、「データがあれば何かが分かるだろう」という誤解も生じています。
確かに、データマイニングによって、併売のルールやパターンを発見したり、売れ筋商品を見つけたりという事例は数多く存在します。しかしながら、その裏側では、企業の課題がしっかりと認識されていること、正しくデータが蓄積されていること、業務とビジネスの正しい姿を理解できている担当者がいること、という前提条件があります。
「データマイニング」は決して魔法の箱ではありません。とはいえ、「競争優位性を獲得するためにアナリティクスを利用した企業は、同業他社の業績を大幅に上回る傾向が2.2~3.4倍(*1)」という調査データにもあるように、実績データを分析・マイニングしてビジネス課題を解決し、業績を伸ばしている企業もあります。アナリティクス、中でもデータマイニングを活用し顧客のニーズを分類分析し、それぞれに適切な施策や業務の改善を行うことで、結果として経常利益を60%近く増加させた事例も存在します。
ただし、データマイニングをビジネスに活かすためには、いくつかの「掟」を守る必要があります。その掟について、本連載で複数回にわたって解説していきます。掟を踏まえ、データマイニングを自社のビジネスに活用していきましょう。
*1 MIT Sloan Management ReviewとIBM Institute for Business Valueによる共同調査レポート Copyright IBM Corporation 2012
アナリティクスをビジネスに役立てることとは
データを分析するための手法やツールと言っても、様々なものがあり、用途や状況により導入すべきものが異なります。
たとえば、ある商品コードをキーにして、その売上を集計。それに時間軸を加え、それは売れ筋なのか死に筋なのか?を見てみる。売れ筋の商品は全国的に売れるようにキャンペーンを展開し、死に筋の商品は生産や仕入れをストップする。こういったことは簡単でよくある昔ながらのパターンです。しかしながら、今日このレベルの分析手法では競合他社に先んじることはできません。というのは、例に挙げた上記商品ひとつとっても収集できる情報の量が飛躍的に増えているからです。
よく、分析ソフトウェアが提案される際の決まり文句として、「KKD(勘、経験、度胸それぞれの頭文字)による営業やマーケティングは意味がありません。しっかり分析して施策に結び付け、業績を伸ばしましょう」と言われたりしますが、この「KKD」、実は簡単に否定できるものではないのかもしれません。長年の経験から導かれる判断は一朝一夕では成しえません。その判断をビジネス施策に結びつけることは大いに価値があるとみなせるのではないでしょうか。
しかしながら、ビジネスのスピードが年々アップし、企業戦略においても、製品のライフサイクルが短くな、新規事業の創出、別分野への進出(フィルムメーカーのスキンケア分野への進出など)が余儀なくされている中、スピーディーで大胆な方向転換にKKDが有効な事業分野はどれくらいあるのでしょうか。また、長い年月をかけて勘と経験を持つ人材を育てるような余裕を持つ企業も多くはないことでしょう。
時間やお金、労力がかかる上、属人的になりがちである勘と経験による判断をITの力でサポートし、競合に勝ちうるスピードで戦略を提示するのがアナリティクスの「役割」なのです。次に、アナリティクスの具体的な内容について、もう少し掘り下げていきます。
Business Intelligence とBusiness Analyticsの違い
データを分析するタイプは大きく分けて2つの分野に分けることができます。
1つめは、Business Intelligence (BI)です。グラフやダッシュボードなど、見える化させるレポート、非定型検索、OLAP(*2)、KPI(*3)などの指標に対するアラート、もしこうだったらどうなるかシュミレーションするwhat if分析(*4)などが挙げられます。古めかしいというわけではありませんが、長年使われてきていることもあり、いちばん身近な分析の分野といえるでしょう。
2つめはBusiness Analytics (BA)です。各種アルゴリズムによるルール・パターン発見、傾向を種別してグループ分け、セグメント分けをし、将来予測を行うことが主です。先に述べた「データマイニング」はこの分野に含まれます。
表1:BIとBAの違い
これらは分析した結果のアウトプットに違いがあるだけでなく、その先の意思決定まで異なってきます。大まかに言うと、「傾向を見るか」、「予測をするか」の違いです。
今回はデータマイニングの入りとして、概観とビジネスにおけるアナリティクスの役割、BIとBAの違いについて解説いたしました。次回はデータマイニングを実施する方法と、そのプロセスの中で実際起きた事例や重要なポイントについて解説していきます。
*2 「OnLine Analytical Processing」の略、複雑で分析的な問い合わせに素早く回答を行う方法の事。OLAPの典型的な用途は売上報告、市場分析、経営報告、ビジネス業績管理(BPM)、予算作成、計画作成、財務諸表作成などである(wikipediaより)
*3 Key Performance Indicatorsの略。組織の目標達成の度合いを定義する補助となる計量基準群。KPIはビジネスインテリジェンスにおいて、現在のビジネスの状態を示すものとして使われ、
今後の対応策でどうなるかを予測するのに使われる(wikipediaより)
*4 値を変更し、その結果の変化を見ること。例えば複数の営業案件の中で、もしこの案件の注文がもらえれば目標が達成できるか?などビジネスフォーキャスティングへの応用例もある。